今宮の心中


作品概要

Love Suicides at Imamiya の原作『今宮の心中』は近松門左衛門の心中物11篇のひとつで、近松59歳の作品。初演は1711年夏、竹本座。
●第一幕
1711年。大阪本町の新物の仕立屋菱屋に奉公するきさ(26歳)は腕の立つ針子で、5歳年下の手代の二郎兵衛(21歳)と深い仲である。五月のある日、きさは風邪を引き、仕事を休んで百貫町に住む請人の姉の家に帰っている。二郎兵衛も母の年忌で郷里の法隆寺に帰っている、とは表向きで、実は大阪に居て、お店に内緒できさと逢瀬を重ねている。
同じ日、先輩格の菱屋の元手代の由兵衛が菱屋の隠居貞法らを難波の舟遊びで饗応している。由兵衛は独立して店を構えているがまだ独身できさに横恋慕している。貞法達が独身の由兵衛の嫁取りの心配をすると「心に決めた人がいるので其のうちにお願いすることになる」などと言う。一行の屋形船が瓦町橋に着く頃日が暮れ始め、人々は岸に上がろうとする。由兵衛は足元を照らす蝋燭を忘れて来たのを思い出し、供をしてきた菱屋の下男久三に近くにあるきさの姉の家に行って蝋燭を借り、ついでにきさも連れてくるよう言う。
久三に連れられて来たきさは隠居等に、『親同士が決めた許婚の姑が死んで先方が婚姻を急いでいる』と、昨夜から三田の父が自分を連れ帰るために姉の所に来ている。自分は幼い頃から大阪に住んでいるし、体も弱いので田舎の力仕事は無理である。今、父がここに来るが、どうか、菱屋の奉公人の中から私の婿は探すことにしていると嘘をついて父を三田村に帰して欲しいと頼む。貞法は頼まれた通りにきさの父を説得してやる。由兵衛は自分が第一のきさの婿候補であるかのように振る舞い、後日の揉め事を避けるためと、自ら証文を書いて貞法やきさ親子に判を押させる。二郎兵衛はきさに会いに行く途中でこの場を通りかかり、少し離れたところから様子を見ていて腹を立て、由兵衛に石をぶつける。人々は危ないので屋形船の中に入ってしまう。
●第二幕
休みから戻ったきさと二郎兵衛は店で忙しく働いている。が、二郎兵衛はきさが由兵衛との結婚を承諾した証文に判を押したのではないかとの疑いからきさに辛く当たり、きさはお前のために親に嘘までついたのにと詰る痴話喧嘩を続けている。けれど、きさも由兵衛が証文に何を書いたのか知らない。夕方、眼病を患う菱屋の主人四郎右衛門にきさと二郎兵衛が医者の灸点通りに灸を据えている時、主人の財布の紐が緩み店の鍵の束があらわになる。二人は悪いこととは知りながら、由兵衛の証文を反故にしたさから鍵を盗み、主人が奥に入った後、店の金庫や戸棚を開け証文を見つけて破る。運悪くそこへ由兵衛が来て二郎兵衛は戸棚の中に隠れるが、一部始終を見て取った由兵衛はきさから鍵を取り上げて戸棚に鍵をかけ、「先日、自分に石をぶつけて怪我をさせたのも誰か分っている、今夜のことを内緒にして欲しいなら自分の思い通りになれ」ときさに迫るが拒絶される。腹を立てた由兵衛は店の人々を起こし、罪人を町の代表に引き渡そうと言うが、夜分でもあるのでこの処理はまた明日にと、四郎右衛門に言われ、きさを姉の元に送り、二郎兵衛を戸棚に閉じ込めたままで帰ってゆく。
夜半、隠居貞方が二郎兵衛を戸棚から救い出し、「由兵衛の書いた証文はあの後すぐに破り捨てた。お前ときさを夫婦にしてやりたいと考えていたが、金庫の鍵を盗んだ罪は庇いようがない。事なきに終えるためには、諦めてきさを由兵衛に譲れ」と意見する。二郎兵衛はこれまで打ったり蹴ったりして自分をいじめた由兵衛にきさを渡すことだけは出来ないと言うが、12歳のときから可愛がって育ててくれた貞法の理のある説得にきさのことを諦める覚悟をする。二郎兵衛は貞法が去った後、不審に思い、先ほど破った証文を見直して驚愕する。誤って大切な家質の手形を破っていたのだ。このような大罪を犯したからにはもう死ぬしかないと、店から抜け出そうとした時、菱屋の表にこれも姉の家から逃げ出したきさが来ていた。
●第三幕
二人は大阪の町を南に向かい、明け方今宮の戎の森に辿り着き、松の枝に店から借りてきた白布を巻きつけて首吊り心中する。その姿は二つのさがり藤のようであった。

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